World Natural Heritage in Japan 日本の世界自然遺産

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奄美・沖縄

奄美大島の希少な動植物に出会う、金作原トレッキング

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黒潮が育む奄美大島の森

日本列島と沖縄本島のあいだに位置する奄美大島。東シナ海を挟んで西には中国や台湾、そして北には韓国があることから国境の島となり、また沖縄や本土の影響も受けて、遥か昔から異文化がまじりあう場所でした。

 

自然環境においても、生物生息域の北限と南限の境目となっており、多様な動植物がともに生息しています。そのなかには、世界でも奄美大島にしか生息しない固有種も数多く含まれています。2021年、島の生物多様性が評価され、沖縄本島の北部と西表島、徳之島とともに世界自然遺産に認定されました。西表島のみに生息する絶滅危惧種のイリオモテヤマネコなど、世界自然遺産エリアの島々のなかでも見られる固有種は異なります。

固有種のアマミセイシカ

奄美大島の面積は712.4平方キロメートル。日本の国土のわずか0.2%に満たない島です。そのなかに日本全体の約13%の生物種が生息しています。

 

奄美大島エコツアーガイド連絡協議会の会長を務める喜島浩介さんによると、島の地理と特殊な自然環境が生物多様性に大きく影響しているといいます。

 

喜島:奄美大島はもともとユーラシア大陸の一部でした。それが約1,200万~200万年前の地殻変動で大陸から分離したため、独自に進化した固有種が多く生息しています。代表的なものでは、アマミノクロウサギやルリカケスなど。

アマミノクロウサギ

喜島:豊かな森が動植物を育んできましたが、じつは地球全体でみると同じ緯度には砂漠や乾燥地帯が多いのです。

 

奄美大島では、温暖な気候と近くを通る黒潮により豊富な雨がもたらされます。その結果、シイやマングローブといった常緑広葉樹が茂る、亜熱帯多雨林が形成されているのです。

 

そんな奄美の自然環境を間近で体感できるのが、金作原です。

自然を敬い共生する奄美の人々

金作原へは、奄美大島の中心街である名瀬から車で約30分。環境保護の観点から、金作原を歩くには喜島さんのような島の認定ガイドを同伴することがルールとなっています。

 

喜島:奄美大島ではこれまで、希少な植物や昆虫が盗掘の被害にあってきました。固有種や絶滅危惧種のなかには小さく目立たない植物もありますから、知らずに抜いてしまったり、傷つけてしまったりすることもあります。

 

奄美の自然に対して理解を深めてもらうためにも、認定ガイドの制度を設けています。ガイドは地形学や歴史文化など専門的な研修も受けていますので、一緒に歩くことで楽しく安全に自然と親しんでもらえるはずです。

 

森には野鳥や小動物だけでなく、毒をもったハブや昆虫も生息しています。トレッキングには長袖・長ズボン、歩きやすいスニーカーを選び、ガイドの指示に従って行動しましょう。

金作原トレッキングの様子

トレッキングコースとなる散策路の入り口には門扉が設置されており、車の進入は禁止です。散策路は約2キロ、1時間半~2時間の道のり。ほとんどアップダウンがないので、トレッキング初心者でも歩きやすい道です。

 

喜島:この散策路はもともと、島民が森の木を切りだすために使っていた林道です。島では生活のために森の木を伐採してきたので、手つかずの原生林と呼べる場所は限られています。それでも現在までまるで原生林のように緑の生い茂る森があるのは、奄美の人たちが自然に対して畏敬の念を持っているからにほかなりません。

 

奄美大島育ちの喜島さんは、森を伐採するだけではなく、守り育ててきた人々の歴史をよく知る人物のひとり。古くから奄美の人々に根づいている、自然への信仰心について話してくれました。

金作原の森が守る生き物の楽園

いよいよ金作原トレッキングのスタートです。森ではシイやカシ、イジュなど10メートルを超える背の高い木々に日光がさえぎられ、気温も少し下がっているように感じます。

 

日当たりのよい場所で巨大な葉を広げているのは、金作原を代表する植物のヒカゲヘゴです。こちらも高さが10メートルほどまで成長する巨大な植物で、約1億年前から変わらぬ姿をとどめているのだとか。巨木に覆われた森は、太古の昔に戻ったような錯覚に陥ります。

喜島:高さの異なる木々が混在し、地面から頭上まで緑に覆われている金作原は、まるで緑のドームのような森です。そのお陰で森の湿度が一定に保たれ、貴重な植物や昆虫が生息し続けられています。

 

木々の恵みは湿度だけではありません。足元に目を向けると、どんぐりやシイの実が落ちていることに気づきます。これらは森の動物たちの大事な食料。快適な温度と湿度、豊富な食料が森の生態系を支えているのです。

 

喜島:奄美大島の動物といえば、固有種のアマミノクロウサギが有名ですが、島の哺乳類はほとんどが夜行性。昼間はめったに見られません。その代わり、日中は野鳥によく出会えます。金作原には固有種のルリカケスやアカヒゲ、そのほかにも、ヤマガラやシジュウカラ、ズアカアオバトといった野鳥が生息しています。早朝、鳥たちを驚かさないよう少人数で森に入ると出会える確率が高いですよ。

ルリカケス

森のなかで耳を澄ませてみれば、野鳥の声があちこちから聞こえてきます。木々をよく観察すると、希少なキノボリトカゲやシリケンイモリといった生き物が見られることも。どんな生き物に出会えるかはそのときの運次第だと、喜島さんは話します。

 

喜島:見たい生き物を全部見ようと思っても、自然が相手ですからうまくいきません。それよりは、森独特の湿潤な空気を感じたり、風の音を聞いたりして楽しんでみてはどうでしょう。

キノボリトカゲ

立ち止まって目を閉じると、森の奥から木々をざわつかせてやって来る風の気配を感じます。花や緑の香りとともに通り過ぎてゆく風の爽やかさは格別です。

 

散策路の折り返し地点には、板根と呼ばれる板のような特徴的な根をもつオキナワウラジロガシがそびえています。樹齢150年以上といわれる大木の堂々としたたたずまいからは、奄美の森のエネルギーが感じられるでしょう。

 

喜島:樹木の幹や枝をよく観察してみてください。着生して花を咲かせるランがあります。5月にはカクチョウラン、6月~7月にかけてサガリランやナゴランが小さく可憐な花を咲かせます。何気なく咲いていますが、どれも環境省のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種です。

カクチョウラン

また、3月から4月にかけて、野イチゴが小さな実をつけはじめます。ホウロクイチゴ、リュウキュウイチゴ、リュウキュウバライチゴの3種類は野イチゴ特有の甘酸っぱさが美味しいのだそうです。

 

喜島:ツワブキの葉をまるめて、シダの茎で縫い合わせてつくるいれものに野イチゴをつんで食べるんです。現代では忘れられてしまった野遊びですが、そんなふうに自然と触れ合うことが旅の思い出になるのではないでしょうか。

 

もちろん、金作原をはじめとする国立公園内で動植物の採取はできませんが、喜島さんは食べると美味しい植物や、採取して楽しめる場所などを丁寧に解説してくれます。

3月の湯湾岳

島の固有種を楽しむなら、金作原のほかに奄美大島最高峰の山、湯湾岳の登山もおすすめ。標高694メートルで、頂上付近には島を一望できる展望台や、奄美大島の開祖といわれる神々を祀った神社もあります。山頂までの数百メートルの道のりは、固有種の宝庫。ハートのような葉の形をしたカンアオイのなかでも奄美の固有種が数種類、自生しています。

 

固有種と出会うトレッキングは、奄美大島以外の世界自然遺産エリアでも可能です。奄美大島から飛行機で30分ほどの距離にある徳之島でトレッキングをすると、島固有の植物であるタニムラカンアオイやトクノシマエビネが見られるでしょう。

 

また、沖縄島北部の「やんばるの森」には、固有種のヤンバルクイナやノグチゲラといった野鳥やリュウキュウヤマガメなどが生息しており、金作原とはまた違った自然が広がっています。

 

草花を観察したり、思わず童心にかえるような時間を過ごしたり、自然を味わうようにじっくりとトレッキングを楽しんでみてはいかがでしょうか。

アマミアンツアーガイド
住所:
〒894-0332 鹿児島県大島郡龍郷町幾里2162-1
電話番号:
090-4772-5850
URL:
https://amamian3.wixsite.com/amamian
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