World Natural Heritage in Japan 日本の世界自然遺産

JP EN
Carousel Image

奄美・沖縄

イラストレーター・池城由紀乃が描く沖縄・奄美の命の讃歌

mail
多様な生態系が織りなす自然は、音楽や写真、絵画など、さまざまなクリエーションの源になっています。世界自然遺産からインスピレーションを受けて作品を発表しているクリエイターにインタビュー。今回の舞台は、青い海に抱かれた生命の宝庫、琉球諸島。イラストレーター・池城由紀乃(pokke104)さんが、座間味島から始まった創作の旅と、アートを通じて人びととつながる喜びを語ってくれました。
  • (写真提供:池城由紀乃)

    池城 由紀乃(いけしろ・ゆきの/pokke104)
    沖縄県出身のイラストレーター。沖縄と東京を拠点に全国で活動し、座間味村観光大使も務める。TEDxRyukyuでのスピーカー経験をもち、世界自然遺産登録に合わせて奄美や西表島でもワークショップを展開。海の生き物や自然環境をテーマにした壁画、ライブペイント、教育プログラムなどを手がけている。

    公式サイト:https://pokke104.com/
    Instagram:Yukino Ikeshiro a.k.a pokke104 (@pokke104)

    座間味島のダイビングが人生を変えた

    「もともと海が大好きで、休日のたびに島々へ出かけていたのですが、20歳のときにダイビングライセンスを取るために初めて座間味島の海に潜ったんです」

    池城さんの価値観をがらっと変えた座間味島の海。(写真提供:池城由紀乃)

    沖縄市に生まれた池城由紀乃さんは、目を輝かせてこう話します。

    「色とりどりのサンゴの世界に囲まれて、きれいなルリスズメダイを一目見たとき、自分はなんてすばらしいところで育ったんだろう!と、それまで当たり前だった沖縄の景色が一変しました。そして、ものすごく愛おしくなったんです」

    • ルリスズメダイをはじめとした海の生き物たちは池城さんに大きな感銘を与えた。
    • ルリスズメダイをはじめとした海の生き物たちは池城さんに大きな感銘を与えた。(写真提供:池城由紀乃)

      以来、輝く海はもちろんのこと、山や生き物、人びとの文化、言葉や食など、沖縄の島々がもつあらゆるものに魅せられていったのだそう。

      「沖縄は陸もおもしろくて、野生的な植物の根が絡まり合う場所があったり、生命力のあふれるガジュマルがコンクリートを突き破って生えていたりとダイナミックな光景に出逢えますし、そんな環境の中で脈々と育まれてきた歴史や文化もあります。こうした沖縄らしい圧倒的な生命のつながりを描きたいんです」

      • 海だけでなく、やんばるの森も大いなるインスピレーション源だ。(写真提供:池城由紀乃)
      • 海だけでなく、やんばるの森も大いなるインスピレーション源だ。(写真提供:池城由紀乃)

        そんな池城さんのアーティスト名は「pokke104」。ポッケにイレヨの意で、見たものや感じたものを大切に心のポケットにしまって、作品として発信しようとの想いをこめたのだとか。

        島の中に佇むと「あっ、まだこれを描いていない。あれも、それも!」と、どんどん新しいキャラクターたちが現れて、筆がぜんぜん追いつかないと笑う池城さん。その目には、物言わぬ隣人たちへの好奇心と敬意がキラリ。豊かな沖縄の生態系は、まさに尽きることのないインスピレーションの源なのです。

        世界遺産登録が生んだ新たな使命

        「たくさんの人と絵を通じてコミュニケーションをとることも、私の大切なライフワークの一つです」という通り、座間味島から阿嘉島、慶留間島などを訪ね歩くうちに自然と友人が増え、やがてワークショップを開催するようになったと言います。

        • 町と一体化する作品群。2枚目はイチハナリアートプロジェクト(2016)での連作の一部で、ガジュマルがモチーフ。(写真提供:池城由紀乃)
        • 町と一体化する作品群。2枚目はイチハナリアートプロジェクト(2016)での連作の一部で、ガジュマルがモチーフ。(写真提供:池城由紀乃)

          台風で看板が飛ばされがちな島のために、みんなで看板を作りなおすワークショップをしたり、壁画を描いたり、ライブペイントを実施したり。アートを通じた地域貢献をスタートしてから20年近くたった2021年、池城さんの活動に新たな展開がありました。

          「沖縄と奄美が世界自然遺産に登録されたんです。これを記念して、TV番組『ダーウィンが来た!』(NHK)では奄美大島・徳之島・西表島・やんばるの環境保護にまつわる特別企画が実施されました。このとき、地元のレンジャーやガイドたちと一緒に、島の生き物のロードキル(車と野生動物の事故)対策として『飛び出し注意』の看板やステッカーを作るワークショップを主催したんです」

          • ワークショップも多く手がける。2枚目は『ダーウィンが来た!』とコラボレーションしたワークショップで、子どもたちと制作した作品。(写真提供:池城由紀乃)
          • ワークショップも多く手がける。2枚目は『ダーウィンが来た!』とコラボレーションしたワークショップで、子どもたちと制作した作品。(写真提供:池城由紀乃)

            アマミノクロウサギなど島の野生動物たちは食べ物を見つけたことで路上に飛び出し、車に轢かれてしまうことが多いのだそう。そこで、ワークショップでは、生き物たちが何を食べているのかに注目。生態を楽しく伝えつつ、共生の方法を考えることを重視しました。

            こうしたワークショップを通じて感じられる醍醐味について聞けば、「地元の方と仲良くなれること!」。

            「今でも忘れられないのは、奄美群島にある徳之島で闘牛の壁画を描いたときのことです。絵が完成して島を去るとき、子どもたちが闘牛のラッパを何十分も吹いて見送ってくれたんです。島で活動していると、温かい人間関係に胸が熱くなることがたくさんありますね」

            • 徳之島の子どもたちと、ワークショップの様子。(写真提供:池城由紀乃)
            • 徳之島の子どもたちと、ワークショップの様子。(写真提供:池城由紀乃)
            • 徳之島の子どもたちと、ワークショップの様子。(写真提供:池城由紀乃)

              さらには、そうした絆は「海外でも感じる」と言います。

              「台湾やロンドンといった海外でワークショップをすることがあるのですが、現地に暮らす沖縄出身の人や沖縄のファンだという方がよく応援に来てくれるんです。これは海外に限らず、日本国内でも同じ。沖縄が好き!という気持ちで新たな仲間とつながり、知らなかった世界への扉が開くこともしょっちゅうなんです」

              沖縄・奄美に眠る無限のストーリー

              最後に、沖縄・奄美の楽しみ方について聞いてみると「たくさんあるけど、やっぱりオススメは地元のガイドさんと巡ることですね」と笑顔を見せた池城さん。

              「ガイドさんによって、伝え方や何気なく教えてくれるストーリーが全然ちがうので楽しいんです。沖縄には四季がないといわれますが、実は動植物が季節のうつろいを知らせてくれるんですよ。冬になるとザトウクジラが帰ってきたり、秋は海を渡ってアサギマダラという蝶々が飛来したり。私は生き物全般に興味があるので、いろんな生物の専門家にガイドをお願いして、お話を聞きながら歩くのが大好き!新しいことを知れば知るほど気になるものが次から次へとあらわれるので、楽しみもワクワクも無限大なんです」。一方で、島内にはハブなどの危険生物も生息するため、その観点でも現地を知り尽くす専門家の存在は貴重だと語ります。

              生き物たちがダイナミックに息づく大自然の島に生まれ、その魅力をアートとして発信しつづけている池城さん。美しいルリスズメダイとの出会いが故郷への愛を呼び覚ましたように、池城さんが描く生き物たちもまた、誰かの心に新たな感動の種を蒔いているのかもしれません。

              池城さんが選ぶ、沖縄・奄美をより深く知るための3タイトル

              『サンゴと生きる』(中村征夫・著)
              水中写真家・中村征夫さんが、カニを主役にサンゴの生態を描いた「写真絵本」。「サンゴと共生する生き物たちの暮らしを見たとき、鳥肌が立つほどワクワクしました。子どもたちにもわかりやすく解説されているところも大好きです」

              『世界自然遺産やんばる 希少生物の宝庫・沖縄島北部』(湊和雄/宮竹貴久・著)
              沖縄本島中北部にあたる“やんばる”の亜熱帯雨林に生息する固有種を、写真家と生物学者がタッグを組んで紹介した一冊。「海の印象が強い沖縄ですが、山や文化など、ユニークで奥深い世界観のすべてがここにまとまっているので必見です」

              『母ぬ島』(仲程長治・著)
              琉球・沖縄の時代と世代をつなぐカルチャーマガジン『モモト』の写真家が、島の風景に潜む陰翳とその美しさをひもといた写真集。「写真の美しさはもちろん、言葉も紙の素材も総合的に見てすごくステキな一冊。何度読み返したか知れません」

              ※この記事は2025年11月制作のものです。

              関連スポット

              ヤンバルクイナ生態展示学習施設 クイナの森

              住所
              沖縄県国頭郡国頭村字安田1477-35(安田くいなふれあい公園内)
              電話番号
              0980-41-7788
              URL
              https://www.okinawastory.jp/spot/600011812

              沖縄本島の最北端・国頭村にあるヤンバルクイナの保護・展示施設。天然記念物の生態を間近で観察できる貴重なスポット。「野生では滅多に見られないヤンバルクイナの貴重な姿が目白押し。水浴び姿も愛らしいので、ぜひゆっくりと時間を確保して巡ってください」

              奄美市立奄美博物館

              住所
              鹿児島県奄美市名瀬長浜町517
              電話番号
              0997-54-1210
              URL
              https://www.kagoshima-kankou.com/guide/53504

              奄美群島の自然や歴史、文化を総合的に紹介している博物館。アマミノクロウサギなど固有種の資料展示、旧石器時代から現代までの奄美の通史が充実。「剥製のクオリティが高く、妖怪などの展示もユニーク! 奄美に興味がある人なら一日中いても飽きない博物館です」

              特集記事一覧

              Recommended Articles おすすめ記事

              奄美大島の希少な動植物に出会う、金作原トレッキング
              奄美・沖縄

              奄美大島の希少な動植物に出会う、金作原トレッキング

              記事を読む
              地域で愛され、食べ継がれる。奄美・沖縄の郷土食
              奄美・沖縄

              地域で愛され、食べ継がれる。奄美・沖縄の郷土食

              記事を読む
              カヌーを漕いでやんばるの森へ。夏の沖縄を楽しむ秘境ツアー
              奄美・沖縄

              カヌーを漕いでやんばるの森へ。夏の沖縄を楽しむ秘境ツアー

              記事を読む
              自然をまとう南島の織物 奄美の大島紬と沖縄の芭蕉布
              奄美・沖縄

              自然をまとう南島の織物 奄美の大島紬と沖縄の芭蕉布

              記事を読む

              このウェブサイトではサイトの利便性の向上のためにクッキーを利用します。
              サイトの閲覧を続行されるには、クッキーの使用にご同意いただきますようお願いします。
              お客様のブラウザの設定によりクッキーの機能を無効にすることもできます。 詳細はこちら。

              合意して続行する CLOSE