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自然と共に暮らす人々と考える、
持続的な関係性
次世代に受け継ぐべき世界自然遺産。日本にある5つの世界自然遺産エリアでは、その稀有で豊かな自然環境と共に、人々の暮らしも営まれてきました。
そんな日本の世界自然遺産を訪れてみると、かけがえのない自然の素晴らしさだけでなく、人々と自然が築いてきた特別なつながりを感じることができます。
スペシャルムービーに登場する、日本の世界自然遺産エリアと共生する人々のお話から、私たちが次世代に向けてどのようなかたちで自然とつながっていくことができるのか、そのヒントを探ってみましょう。
Ogasawara Islands 小笠原諸島
ダイビングショップ・オーナー 山田 捷夫 / SYOUBU YAMADA
プロフィール
2020年版 出演
自然環境保全活動 NPO法人小笠原海洋島研究会代表、小笠原のダイビングショップ「KAIZIN」オーナー。
小笠原の海・自然に惚れ込み移住して約40年、日本職業潜水教師協会インストラクター、東京都自然ガイド、一級小型船舶免許の資格を持つ。小笠原のほとんどの海を素潜りしながら、小笠原のダイビングスポットの多くを発見してきた、小笠原の自然、海を熟知したベテランガイド。
「自然が生きている」ことを感じながら、変わらないように守っていく
私はダイバーとして、いろんな海を潜ってきたのですが、小笠原の海のことが一番気に入って、40年前に移住してきました。
もう何十年も小笠原の海に潜っていますが、昔もいまも変わらず、常に新しい発見があります。それが小笠原の海のいちばんの魅力だと感じています。
また、小笠原諸島は南の島ではあるけど、季節によって見られる自然や生き物が変わるんです。そんな楽しさも小笠原の魅力です。
小笠原の豊かな自然のなかで日々生活をしていると、「自然が息をしている」ことを身近に感じられます。そうすると「自然が生きている」感覚をもっと感じたいと思うようになるんです。
この豊かな海を、変わらないように守っていくことができれば、孫たちもきっと海を好きになってくれると思います。
旅人 / ダイビング・インストラクター アンドレア・ラモス / ANDREA RAMOS
プロフィール
2020年版 出演
沖縄でダイビングショップを経営するブラジル人ダイビングインストラクター。ブラジル、キュラソー、メキシコ、フィリピン、オーストラリア、タイといった、世界中でのダイビングを経験し、2018年には世界最大のダイビング教育機関PADIのインストラクターアワードを受賞。環境技術者としての一面も持ち、ダイビングを通して自然とあらゆる海洋生物に触れ、人々に喜びを与えることに情熱を注いでいる。
人々の自然への敬意と自由な生き物たちに、完全に心を奪われた
今回、はじめて小笠原諸島を訪れたのですが、本当に驚きました。雄大な自然がとてもいい状態で保存されていて、海のなかもとても健全。
小笠原のイルカは、海のなかで自由に暮らしていて、それは本当に特別なこと。毎日のようにイルカに出会えて、すぐ近くで一緒に泳げたこともはじめての経験でした。多くの人が夢見る光景だと思います。
小笠原では、ローカルの人々が島を大事にしていて、誰もが自然に対して敬意を払っていることがわかります。だからこそ、こんなにも多くの生き物を見ることができるのではないでしょうか。それは海だけではなく、陸でも同じこと。この島は、本当に想像以上に素晴らしかった。完全に心を奪われました。
Shiretoko 知床
ネイチャー・フォトグラファー 八木 直哉 / NAOYA YAGI
プロフィール
2020年、2022年版 出演
知床ウトロ地域を拠点に、身近な自然と生物を撮影しながら、ネイチャーガイドも行う知床在住の自然写真家。北海道の本来の自然と人の関わりの痕跡を現在のテーマとして撮影を続けている。2016年、第三回住友不動産販売ステップフォトコンテストプロフェッショナル部門にて準グランプリ受賞。ほか、航空機内誌の特集やタウン誌、フィッシュマガジンなどでの連載に撮影作品を掲載。
まず動物たちや自然のことを考える。そうすると、おのずと人の行動が決まる
知床半島は細長い地形で、険しい山と海が近い位置にあるんです。だから動物たちの生活も空の変化もよく見える。たとえば、狭い半島を流れる急流では、カラフトマスやサクラマスが産卵のために川を上る様子を目前で見ることができます。
知床では自然と人間の距離が近くて、動物たちも人間臭く感じます。そんな知床での撮影で大切にしていることは、とにかく動物たちの生活を邪魔しないこと。人間ではなく動物たちのことをまず考える。そうすると自分の行動はおのずと決まってきます。いろんな偶然のうえに成り立った、人と自然との関係性が知床にはあると思います。
Shirakami-Sanchi 白神山地
マタギ 大谷 石捷 / ISHIKATSU OHTANI
プロフィール
2020年、2022年版 出演
白神山地でも有名なマタギ(熊など大型の獣を捕獲する技術と組織をもち、狩猟を生業としてきた人々)の里である「赤石またぎの里」 で、長年マタギとして生計を立ててきたマタギ頭領の次男として生まれ育つ。父親から伝授されてきたマタギの作法を現代に伝えている。
山の神への感謝とともに、自然の恵みをいただいて生きる
私の父親はマタギ一筋で生きてきたので、私も子どもの頃から父と一緒に山を歩き、自然の恵みをいただきながら暮らしてきました。
この広い山のなかを自分の足で、五感をフルに使って歩いて、山の神から自然の恵みをいただく。狩猟だけでなく、山菜や川魚、きのこなど、いろいろな自然の恵みを授かっています。山に入るときは、まず山の神に感謝の気持ちを伝えることも父から教わったね。ブナ林で湧く水はほとんど年中濁らないし、こんなに素晴らしいものはないと思う。素晴らしい木だね。
白神山地を守る会 永井 雄人 / KATSUTO NAGAI
プロフィール
2020年版 出演
NPO法人白神山地を守る会代表理事。ほか、NPO法人白神自然学校一ツ森校代表理事、鯵ヶ沢白神グリーンツーリズム推進協議会会長を兼任。 植生の調査研究やブナの森の再生活動といった自然保全を行うほか、2003年、鰺ヶ沢町の廃校を利用した「白神自然学校一ツ森校」(NPO法人)を開校し、環境教育にも取り組む。未来や若者・子どもたちに白神山地を残すために精力的な活動を行っている。
成長が見届けられなくても、次世代の環境に思いを馳せながらブナを植える
白神山地で暮らしてきた人々は、ずっと自然とともに生きてきました。山菜を採るときも、根っこから抜くことはしない。小刀で根っこは残して上だけを採って、自然の営みを残していくんです。
ブナの木も同じです。ブナは3、4年おきにしか種をつけないのですが、その種を拾って里山で苗木に育て、それをまた山に戻す活動もしています。
ブナの木が花を咲かせるには約50年、実をつけるには約80年かかるといわれています。ブナを苗木から育てても、成長した姿を自分が生きている間に見ることはできない。大きな木に育つ姿に思いを馳せるしかないんです。だけど、間違いなく次の世代により良い自然環境を残していると実感しています。
Yakushima 屋久島
ネイチャーガイド 真津 昭夫 / AKIO MANATSU
プロフィール
2020年、2022年版 出演
「ネイチャーガイドオフィスまなつ」代表。東京でデザイン関係の仕事に従事した後、1978年に屋久島に移住、1997年同オフィス開設。「エコロジカル & スピリチュアル」をコンセプトとし、屋久島の自然を自然科学の目線から理解するエコツアーと、目に見えない世界を感じるスピリチュアルツアーをガイドしている。
人間は、ありのままの自然の脇で生きている
屋久島の近くには黒潮が流れており、暖かい海に囲まれています。そのため海から上がった水蒸気が上空で冷やされて雨となり、毎日のように島に降り注ぎます。それが屋久島の自然に与えている影響はかなり大きいと思います。
屋久島の原生林のような、ありのままの自然の姿にすごく惹かれます。目に見えない部分も含めて自然環境が成り立っていることを日々感じますし、そんな自然とぼくら人間はどのように付き合っていけばいいのかという、自らの立ち位置みたいなものも教えられているような気がします。
残念ながら人間は、原生林のなかで暮らしていくことはできません。ありのままの自然の脇で、それを利用しながら生きていくしかないんです。ただ、人だけが単独の力で生きているわけではない。それをしっかり理解して、自然と付き合っていかなければと感じています。
Iriomote Island 西表島
ネイチャーガイド 森本 孝房 / TAKAFUSA MORIMOTO
プロフィール
2022年版 出演
「西表島バナナハウス」代表。兵庫県太子町生まれ。21才で西表島へ移住。西表島エコツアーの第一人者として、研究者やメディア関係者から調査や取材の依頼が絶えない。西表島の自然を40年近く見つめ続けて得た経験をガイドや自然解説など、体験を通して西表島を発信している。
生き物と自然の繋がりを実感できる宝の島
西表島の森が恵みをもたらし、干潟やマングローブ林に暮らす生き物を通して、森からの恵みが海まで行って海の生き物を育んでいます。西表島では生き物たちがお互い繋がりあって生きていて、その繋がりがよく分かるこの島は本当に宝の島です。
昔から先人たちはこの島で生活するために森を守ってきましたし、自然と共生して感謝をして、大切にしてきました。その想いを継いで、島の生き物たちがよりよく生活できるような場、それをいかに後世に残していくか。そういうことを伝えるために私は活動を続けています。
Tokunoshima Island 徳之島
塩作り職人 水本 龍太郎 / RYUTARO MIZUMOTO
プロフィール
2022年版 出演
犬田布岬の近くにある西犬田布集落で「ましゅ屋」を営む。観光客向けの塩作り体験ツアーにも積極的に取り組み、徳之島の伝統を残す活動を続けている。妹の松岡郁代氏は兄が作った塩で島料理を提供する「やどぅり」を営んでおり、塩と地元の素材を使った料理を堪能できる。
天然のものを活かしたワクワクする旨みを作り続けている
夏に塩をつくるとワクワクします。海水を焚いて海水が沸騰する、もう匂いが違います。
魚の煮付けみたいな匂いがしますが、それは海岸の岩場にたまった海水に小魚がいて、海水が蒸発すると魚が煮詰まって煮干しみたいに出汁が出ているのだと思います。
この伝統的な塩作りを続けている理由は、自分の両親も塩作りをしていたので、それを絶やしたくないという想いもありますが、旅行者のみなさんが訪れてきてくれたときに「美味しい」と言ってくれるから、やっぱりこの天然のものを活用した伝統的な塩作りはいいな、と思って続けています。
Amami Oshima Island 奄美大島
染色家 金井 志人 / YUKIHITO KANAI
プロフィール
2022年版 出演
奄美大島の北部・龍郷町にある天然染色工房「金井工芸」の2代目。大島紬の泥染めをはじめとする伝統的な天然染色を行。伝統技術を受け継ぎながら、天然染色に新たな価値を生みだすためにアパレルメーカーやクリエイターとのコラボレーションを展開。職人でありながらアーティストとしても活躍する。
自然の中に順応して培った知恵を受け継いでいる
小さい頃から父が始めたこの工房の中で遊んだり手伝ったりして一番面白いと感じたことは、自然の物がないとできない色がある、色も山に採りに行く、ということでした。
泥染はこの島で培ってきた自然の知恵がいっぱい入っているものなので、今までここで暮らしてきた先人たちの知恵と、それを活かす自然、そことの関係性のなかで生まれてきたものを継いでいることを実感します。
自然の中でしか人間は生きていけないし、その中でしか僕らの仕事も存在しない。当たり前のことですが、そこに順応しているからこそ、ここにいるっていうのも自然から教えられる気がします。
The northern part of Okinawa Island 沖縄島北部
ネイチャーガイド 久高 奈津子 / NATSUKO KUDAKA
プロフィール
2022年版 出演
沖縄島北部の国頭村にある「Yambaru Green」代表。幼い頃から慣れ親しんできたやんばるの森の魅力を次世代に残すための活動を続けている。その一環として地元の子どもがやんばるの自然を学べる場として「小さなネイチャーセンター」を運営し、定期的に野生生物調査を行い日々のやんばるの森の状態・生きものたちの様子を把握することに努めている。
子供たちが地元の自然を素敵だと思ってくれることが一番
やんばるの森は人の気配があまりなく、生き物の森だな、ということを感じることができますし、生き物同士の繋がりを行くたびに発見できるので魅了されています。
物心がついたころから、やんばるの森の中で過ごす時間というのが当たり前で、自然や生き物に触れることが、とても楽しかったことを記憶してます。
この自然をいつまでも残していきたい、そのために何ができるかということを考えて、野生生物調査やガイドツアーをするようになりました。この自然の面白さ、魅力、自然の遊び方を子供たちに伝えて、子供たちが自分の生まれ育った場所は素敵だな、と思ってくれることが一番だと考えています。
Hahajima(Ogasawara Islands) 小笠原諸島 母島
ネイチャーガイド 宮川 五葉 / ITSUHA MIYAGAWA
プロフィール
2022年版 出演
小笠原村母島でネイチャーガイドの「Irie Isle」を運営する。福岡に生まれ、沖縄本島、石垣島、東京都奥多摩と自然豊かな地での暮らしを経た後、母島に移住し10年以上が経つ。母島では東京都レンジャーとして小笠原の自然保護活動も行い、そこで得た知見を活かしてネイチャーガイドとして母島の奥深い魅力を観光客に伝えている。
この島の自然と暮らすと、生き物として正しい位置にいることを肌で感じる
母島の成り立ちが火山で海の真ん中にできた海洋島なので、最初は何も住んでいませんでした。この島に偶然たどりついた生き物にとっては天敵のいない楽園であり競争がないので、みんなが平和に暮らしてユニークな生態系ができあがっています。たとえば心臓が透けて見えるくらい透明なカタツムリもそのひとつです。
この島で暮らしていると、潮の満ち引きだったり月の満ち欠けだったり、自然のリズムなかで生き物のひとつとして存在しているというのをすごく感じます。この自然のなかにいると生き物として正しい位置にいるというか、本当にごく一部の存在でしかないというのを肌で感じます。
持続的な関係性は、
受け継いでいくことで完成する
自然からの大きな恩恵を受けながらも、その環境に影響を与えすぎないように自らの暮らし方を設計する。日本の世界自然遺産エリアで暮らしてきた人々に共通していたのは、自然への畏怖と感謝、そして持続性を意識した関係性の築き方でした。
そして、その共通点が何世代も前から受け継がれてきたからこそ、貴重な自然遺産がいまの私たちに残されることになったのです。
そんな世界自然遺産に旅する私たちにできること。それはありのままの自然を感じる喜びを素直に体感し、一人ひとりがそのバトンを受け取って、それぞれの次世代に伝えていくことかもしれません。かけがえのない、それぞれの「持続的なつながり」のあり方を探す旅に出てみませんか?