特殊な山岳環境と多雨な気候が育む屋久島の植生
屋久島が位置するのは緯度30度の亜熱帯。沿岸部の年間の平均気温は約20℃でありながら、標高2,000mに迫る山岳は亜寒帯や冷温帯の特性をもつなど、日本の気候が垂直的に分布しているのが大きな特徴です。注目すべきはその植生。生育する植物は1900種以上にも及び、70種以上もの固有植物を記録。苔類に至っては約600種が生息しており、保水性に乏しい花崗岩の土壌の代わりに苔が森の水を蓄えているといった側面もあります。このような多様な植生が屋久島で見られる所以はさまざまあり、冬には雪が降るほどの高山の存在や、黒潮暖流による水蒸気がもたらす豊富な雨量などが挙げられます。また、その植生は多様なだけではありません。たとえば、縄文杉などのヤクスギは樹齢数千年を超え、他に類を見ないほど長寿の樹。なぜ屋久島のスギはここまで長生きなのでしょうか。その理由は、島の核ともいえる花崗岩が生成する土壌。保水性に乏しく栄養価も低い花崗岩は一見植物の生育には不向きですが、厳しい環境と土壌の影響で成長が遅くなることで幹は硬く強くなり、病害虫や雨による腐敗を防ぐ樹脂の生成を促しているのです。これが樹齢数千年を超える屋久杉の生育には欠かせない要素のひとつになっています。屋久島でしか見ることのできない植生は、地理的な条件に加え、特殊な地形や気象条件がいくつも重なることで誕生した、奇跡の産物と言えるでしょう。
参考文献:
『屋久島―樹と水と岩の島を歩く』岩波ジュニア新書
『屋久島の植物』(財)屋久島環境文化財団発行
『新版 屋久島の植物』初島住彦監修 南方新社
イラスト=泰間敬視